ある登記手続のご依頼をいただいて、内容を調査していると、不動産の所有者であるご依頼人の現住所と登記簿上の住所が異なっていることがあります。その場合、今回行いたい登記手続の前提として、登記簿の住所を現住所へ変更する登記が必要になります。そのことをご指摘すると、「ちゃんと住民票は変更していますよ」と言われることがあります。
お気持ちはよくわかります。住民票の異動という手続を公的な機関である市区町村役場で行っているのだから、同じく公的機関である法務局の登記簿にもその情報は反映されているべきでは?ということだと思うのです。
しかし、実際はそうではありません。登記簿上の住所は、住民票を異動させれば自動的に変更されるということはなく、法務局へ登記名義人住所変更登記を申請して変更しなくてはならないのです。
理由は、一言で言ってしまえば、法律でそう決まっているからです。どうして、そんなことを法律で定めているのでしょう?確かに、住民票と登記簿を連動させてくれれば、所有者としては楽ですし、費用もかからないので大助かりです。そのくらいの行政サービスをしてくれてもよさそうなものです。でも、よく考えてみてください。不動産というのは大きな財産です。それに関する登記簿の記載内容が、自分の知らないところで勝手に書き換えられることの方が怖くないですか?
というようなお話をすると、ほとんどの方が、「引っ越しは自分の都合でしたんだし、まあそういうものなのかな・・・」と一応ご納得されます。
ところがです!引っ越しをしていないのにこの登記名義人住所変更登記をしなくてはいけない場合があるのです。
それは住居表示実施に伴い住所の変更がされた場合です。住居表示実施というのは、都市化に伴って、地番と住所を区別するために市区町村が実施するものです。この住居表示実施が、自分の住んでいる地区で行われた場合、それまで使っていた住所から新住所へ住所の変更がなされます。例えば「○○市○○町100番地」だった住所が、住居表示実施により「○○市○○一丁目1番1号」に変更されてしまいます。自分の意思とは関係なく、です。(※住居表示実施はメリットが多いので、それ自体は決して悪いことではないと思います)
この住居表示が実施されたことで、登記簿上の住所は「○○市○○町100番地」となっているけれど、現住所は「○○市○○一丁目1番1号」になっている方が、何かしらの登記申請をする場合も、やはり前提として登記名義人住所変更登記が必要になります。
この場合は、お客様の中でもご納得いかない方が少なからずいらっしゃいます。お気持ち、よ~くわかります。自分は家を建てたり買ったりしてそこに住み、ただただそこに住んできただけで、引っ越しなどしていない。市区町村が勝手に住居表示を実施して住所変えただけなのに、どうして自分が面倒を被るんだ。役所間で連動させて変更しておくべきだというお怒りを何回も聞いてきました。「どうしても納得いかない」と市役所に話をされに行った方もいらっしゃいますが、「法律・条例」の前ではどうしようもなく、渋々、登記名義人住所変更登記をご依頼されました。お気持ち、よ~くわかります。自分もその立場になったら多分、腑に落ちないですもの。
しかし、皆様の大切な大切な、しかも、多くの方がご自身最大の財産ともいえる不動産を守るために不動産登記制度があり、その性質上、厳格なルールの上で、皆様の財産が守られているとご理解いただきたいと思います。